鉄道に生きる

伊東 志穂 大阪工事事務所 うめきた建築工事所 係長

培った経験とリーダーシップで駅開発の最前線に挑む

新旧のホームを結ぶ西口改札内コンコース。照明のデザインや光の調整、トイレの設備に至るまで、伊東のこだわりが凝縮している。

 2023年3月18日、西日本エリア最大の乗降客数を誇る大阪駅に、新たな地下ホームと「うめきた地下口」「西口」の二つの改札口が開業した。大阪駅西口は、混雑緩和や西側エリアへのアクセス向上の役割を担う。伊東はこの大規模な西口設置工事に設計から携わり、進化する駅の未来を開発の現場から支えている。

一つひとつの学びを成長の糧に

工事完了後には、ガイドラインに沿って手すりや階段の高さなどをすべて実測。安全のための確認作業を徹底する。

 伊東は、建築の中でも設備分野を専門的に学び、2008(平成20)年に入社した。最初の配属先は、主に駅施設の保守管理を手がける大阪設備区(当時)。国鉄からのベテラン社員が多く、「教えてもらうより見て覚える」という職人気質の中、分からないことはまず自分で調べ、それをもとに上司に教えを請うというやりとりを日々繰り返していたそうだ。翌年には新大阪建築工事所(当時)に異動し、今度は岸辺駅橋上化や東淀川駅のバリアフリー化に携わる。伊東は、橋上駅舎に繋がる跨線橋をはじめ、エスカレーターや多目的トイレなどのバリアフリー設備の工事監理を新たに学んでいった。

 その後、入社4年目となった伊東は、大阪駅改良工事所(当時)において高架下改良プロジェクトの工事管理という重要な業務を担当する。駅の規模も、関わる工事関係者の数もこれまでとは桁違いの現場。「現地を歩き回り自分の目で状況を確認、施工会社や関係者とタイムリーに連携し、図面をまとめていくことに努めていました」と当時を振り返る。仕事のスピードについていくのが精いっぱいで思うようにできない歯痒さも味わったが、現場で会話することの大切さ、みんなで一つのものを作る楽しさを知る機会にもなったという。大規模な工事のあり方を学んだこの時の経験は、伊東の今に活かされている。

自ら切り拓く女性技術者の道

次の開業に向け工事が進む西口エリア。伊東は現場責任者らと会話を重ね、チーム一丸となってゴールを目指す。

 これまでのキャリアの中で、伊東は二度、出産、育児休職を経験している。第一子出産の際は1年間、第二子の出産時には3年間の育児休職を経て復帰した。それまでの工事監理の現場から離れ、一度目の復帰後の職場は建築設計担当課。「設計に携わるのは初めてでした。一から学んでいくという気持ちで臨みました」と語る。女性技術者としてキャリア形成のモデルケースの一つになってほしい、という思いも感じた。伊東は、仕事と家庭の両方で自身の役割を果たすため、さまざまな制度を活用し、新駅設置工事(東姫路駅)や茨木駅改良の設計業務に取り組んだ。

 そして、二度目の育児休職後には現在に繋がる大阪駅西口の設計を担当。2019(令和元)年からは大阪駅西口・高架下開発という一大プロジェクトの指揮をとり、再び鉄道建築の現場に立つ。工事は夜間に行われることも多い。伊東は一旦自宅に帰って子どもと過ごし、夜中に起きて現場に向かう日もあるという。厳しい工程の中で進む工事の安全を自らの目で見届ける。

チームの力が駅の未来を形造る

現場では図面通りに進まないことも多い。施工会社に指示を出すための修正案を事務所内で検討する。

 新設された大阪駅西口は、既存の5つの在来線ホームとうめきたエリアの新ホームや「うめきた地下口」を改札内の地下連絡通路で結んでいる。コンコース中央付近にある待合スペースは、水都大阪にふさわしく水をテーマにしたデザインが柱や照明に採用され、西側の玄関口としてシンボリックな空間を生み出している。

 今回のプロジェクトでは、想定の設計をしてから現地を実測。その後、状況に合わせた設計図をおこすといった既存改修特有の作業を繰り返すことになった。開業に間に合わせるため、伊東は工程を何度も練り直したそうだ。「安全に工事を完遂し、開業できたのは、お客様にいい状態でご利用いただきたい。その思いにみんながついてきてくれたから」と、工事にあたったチーム全員への感謝を口にする。「これからは残る11番線ホームの工事があり、新駅ビルの開業も控えています。仕事を楽しみ、子どもに誇れるものを作っていきたい」。ワークライフバランスを模索しながら、伊東の背中を追う後輩たちに道を示す。

※現在、11番を除く5つの既存ホームから西口を経由してうめきた地下ホームへアクセスできる。

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